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長崎地方裁判所 昭和39年(行ウ)1号 判決

原告 福地新一

被告 長崎県知事

主文

原告の訴えを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し昭和三八年一月三〇日付けでした原告所有の福江市北町六八〇番地の二宅地二四四坪四合及び同所六八〇番地の三宅地一七七坪についての仮換地を一八街区二一画地三五五坪とする旨の仮換地指定処分を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、福江市北町六八〇番地の二に宅地二四四坪四合、同所六八〇番地の三に宅地一七七坪、合計四二一坪四合を所有しているところ、被告は、福江都市計画事業火災復興土地区画整理事業の施行者として、原告に対し昭和三八年一月三〇日付けで、右二筆の宅地についての仮換地を一八街区二一画地三五五坪とする旨の仮換地指定処分をし、同日その旨を原告に通知した(なお、被告は、原告に対し同年一二月三〇日付けで、右仮換地の使用収益開始の日を同日と定め、その旨を通知した。)。

二、しかし、仮換地を指定する場合には、仮換地及び従前の宅地の位置、利用状況、環境等が照応するように定めなければならないのに、原告に対する右仮換地は、従前の宅地に関するこれらの事項につき原告と同様の事情下にある近隣の宅地所有者に対する仮換地に比し、著しく不公平かつ不合理に指定されているので、本件仮換地指定処分は違法である。

三、すなわち、原告所有の福江市北町六八〇番地の二宅地二四四坪四合及び同所六八〇番地の三宅地一七七坪は、同市商店街の中心部に位置し、原告は右宅地上に店舗を所有して教科書、文房具、食料品その他日用雑貨品を販売しているが、その西隣りには、そこで、履物業を営む山本熊次所有の同所六七九番地の一宅地七一坪二勺が、更にその西隣りにはそこでかまぼこ製造業を営む山村チノ所有の同所六七九番地の三宅地一二一坪一合一勺があり、またその東隣りにはそこで旅館業を営む歳津惣太郎所有の同所六八〇番地の四宅地二一坪四合八勺があつて、これら宅地の北側は新栄町通りと呼ばれる幅員約六メートルの道路に面しており、右道路の右六七九番地の一先きから北東の方向に商人町通りと呼ばれる幅員約八メートルの道路が通じて三さ路をなし、右商人町通りに面してそこで陶器販売業を営む平川光丸所有の同市商人町八〇一番地の五宅地三四坪五合がある。以上の宅地の相互の位置関係は、別紙第一図のとおりで、右三さ路付近は同市において最も商業の盛んな繁華地域である。しかして、被告が決定した換地計画によれば、右新栄町通りが幅員一六メートルの道路に拡張され、右商人町通りから右拡張される道路と交差して南西の方向に通ずる道路が新設されるので、これに伴い、右原告らの宅地はいずれも減歩の上、換地が定められることとなるのであつて、これらについての仮換地は、原告に対して一八街区二一画地三五五坪が、右山本熊次に対して同街区二三画地一三坪及び一九街区一画地四三坪が、右山村チノに対しては一八街区二四画地七九坪が、右歳津惣太郎に対しては同街区二二画地一六坪が、右平川光丸に対しては同街区二五画地二八坪がそれぞれ指定された。以上の仮換地の相互の位置関係は、別紙第二図のとおりである。

ところが、別紙第一図、第二図を対比すれば明らかなように、(一)原告、右山本熊次及び山村チノの各従前の宅地は、いずれも一等地地域にあるのに、右山本熊次及び山村チノのみが角地の最高地に仮換地を得、原告に対する仮換地は、別紙第二図のイ点から、拡張道路に面する箇所で一二、五間、新設道路に面する箇所で一二間も離れていて、営業上約七等地の価値しかなく、(二)殊に右山本熊次は、角地だけでなく新設道路に面しても仮換地を得、その位置は原告に対する仮換地の新設道路に面する箇所よりも右イ点に近いので、原告は同人より一層不利な取扱いを受けており、(三)また、原告の従前の宅地は、袋地である右歳津惣太郎の従前の宅地や商人町通りに面する平川光丸の従前の宅地よりも営業上有利な位置を占めているのに、右歳津惣太郎は新設道路に、右平川光丸は拡張道路に各面して仮換地を得、その位置は原告に対する仮換地の新設道路、拡張道路に各面する箇所よりもそれぞれ右イ点に近いので、原告は同人らより不利な取扱いを受けており、(四)更に、原告らの従前の宅地の間口と原告らの拡張道路に面する仮換地の間口とを比較して増減率を算出すると、右山本熊次が三、五間対三、五間で一、右山村チノは四、五間対一〇間で二、二二、平川光丸は一、八間対二、五間で一、三九と、いずれも従前以上の間口を得ているのに、ひとり原告のみが七間対五、五間で〇、七八九と減少した間口しか得られず、拡張道路の通りが将来最も繁栄するものと予想されるだけに、原告はこれらの者よりも不利な地位に置かれている。

従つて、原告に対する本件仮換地は、これらの者に対する仮換地に比し、著しく不公平かつ不合理に指定されているわけであつて、かかる仮換地指定処分は、違法であり、取り消されるべきものである。

四、原告は、本件仮換地指定処分を不服として、同年三月二七日建設大臣に対し審査請求をしたが、今日に至るまで裁決がない。そこで、本件仮換地指定処分の取消しを求めるため、本訴に及んだ。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のように述べた。

一、原告主張の一の事実及び原告が建設大臣に対し本件仮換地指定処分につき審査請求をしたのに対し、未だ裁決がないことは認めるが、その他の事実は争う。

二、本件仮換地指定処分は、被告が本件土地区画整理につき設置された土地区画整理審議会の意見を聞いた上、適法に行なつたものである。原告の主張は、行政庁に認められた自由裁量権の範囲内の事項につき、その不当を論ずるものであるから、失当であるのみならず、元来、原告の主張するような不服は、換地計画そのものに対し、土地区画整理法第八八条第三項以下の規定に従い、被告に意見書を提出して処理を受けるべきものであつて、仮の処分である仮換地指定処分に対していうべき性質のものではない。

理由

一、職権をもつて、原告の訴えの適否について判断する。

行政処分の取消しを請求する訴訟は、当該処分があつたことを知つた日から三箇月以内に提起しなければならないが(行政事件訴訟法第一四条第一項)、右出訴期間の制限は、土地区画整理法による仮換地指定処分のごとく、その後になされるべき換地処分と共に一連の手続きを構成し、終局的処分である換地処分によつて所期の法的効果が完成するような経過的、段階的性質を持つ行政処分の取消しを請求する訴訟にも適用があるものと解すべきである。ところで、本件仮換地指定処分の通知が昭和三八年一月三〇日原告に対しなされたことは、当事者間に争いがないから、原告は右同日に右処分があつたことを知つたものというべく、従つて右処分の取消しを請求する訴訟は、遅くとも同年四月三〇日までに提起しなければならないものである(なお、右仮換地の使用収益開始の日を定める通知が同年一二月三〇日付けで原告に対しなされたことは、当事者間に争いがないが、本件仮換地指定処分の取消しを訴求する場合の出訴期間が右の通知の日から起算されるものではないことは、いうまでもない。また、原告が右処分を不服として、同年三月二七日建設大臣に対し審査請求をしたが、今日に至るまで裁決がないことも、当事者間に争いがない。しかし、いわゆる審査請求前置制をとる行政処分について、行政事件訴訟法第八条第二項第一号により、裁決を経ないでその取消しを訴求する場合の出訴期間は、裁決があるまで進行せず、その間いつまでも適法に出訴できるものと解されるけれども、仮換地指定処分のごとく、審査請求前置制をとつていない行政処分について審査請求をし、裁決がある前にその取消しを訴求する場合の出訴期間は、当該行政処分を基準として算定すべきものであるから、原告が審査請求をして未だ裁決がないことは、本件における出訴期間の算定に何らの消長を来たすものではない。もつとも、右審査請求に対する裁決があつた場合には、同法第一四条第四項、第一項に従い、新たに進行を開始する出訴期間内に当該行政処分の取消しを訴求することができるけれども、これと本件とは別個の問題として処理されるべきものである。)。

しかるに、本件記録によると、原告が本訴を提起したのは昭和三九年一月二四日であつて、右出訴期間の経過後であることが明白であるから、原告の訴えは不適法な訴えである。

二、よつて、原告の訴えは不適法として、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原宗朝 青木敏行 寺田明子)

(別紙第一、二図省略)

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